第32回 御木本メソッドアカデミー認定講師と研修生のためのセミナー 

2025年1月12日(日)、第32回御木本メソッドアカデミー認定講師と研修生のためのセミナーが日本体育大学 世田谷キャンパス教育研究棟2階 2203教室にて開催されました。

今回は日本体育大学陸上競技部パラアスリートブロック監督の水野洋子先生を講師にお迎えし、ピアノレッスンに活かせるコーチングの手法について学びました。多くのトップアスリートを育ててきた水野先生の豊富な知見に基づくお話は、実に奥深く興味深いものばかりでした。

水野 洋子先生プロフィール:2015年日本体育大学大学院体育科学研究科コーチング学専攻博士前期課程満期終了。2020年日本体大育大学大学院体育教育学博士後期課程満期退学。2015年からパラスポーツの陸上競技の指導に携わり、パラリンピックおよびパラ世界陸上競技選手権大会にて7個のメダル獲得に貢献した。パラアスリートになる背景は多種多様である。障害を持つうえでの苦悩や困難をスポーツを通して喜びや幸福にかえ、「自分の力で自分の人生を豊かにする」ことを目的にアスリートの育成に従事している。

コーチングでは、指導者と生徒がより良い関係を構築し、お互いが成長しながら幸福感を得られることを理想としています。知識や技術の伝達に重点を置いたティーチングとは違い、指導者は答えを出さず、気づかせるための質問を投げかけて先導していきます。その子の中に潜んでいるものを探りながら本質を引き出し、生徒の主体的な学びを促しつつ、パフォーマンスをいかに向上させていくか、そのプロセスを詳しく説明してくださいました。

生徒に考えさせることは、自ら学び成長していく力を育むことにつながります。自己省察によって自分の学習過程を振り返り改善点を見つけ、フィードバックにより他者から評価や意見をもらうことで自己認識を深めていきます。

水野先生は試合の後に、選手に必ず振り返りをさせます。まず「良くなった点と、その理由」を書き出します。良い点に着目することで自己肯定感を高められ、理由を書くことでコーチも生徒も客観視でき、次の成功につながる良い習慣が身に付くそうです。一方、今後の課題は2〜3つまでに絞ります。(課題が多すぎると混乱してしまうため。)書く作業には、思考が整理され課題が明確になるメリットがあります。結果が伴わなかった場合でも、やるべきことが分かっていれば落ち込む暇もなく次の練習に入れますし、「今回はただ惜しかっただけ。次は到達しよう!」と前向きに課題に取り組む気持ちになれます。

実際に良くなった点と課題を書き出し、コーチ役と生徒役になりペアワークを行いました。和気あいあいとした雰囲気でみなさん盛り上がっていました。

後半は、マインドセットについて学びました。困難に立ち向かう粘り強さや、失敗を恐れず挑戦し続けられる成長的思考に育てるには、結果を褒めるのではなく、その過程や挑戦を褒め共感することが大切です。重視すべきは順位や成績ではなく「過去の自分より、わずかでも進歩していればOK」というマインドを持つこと。そして、あくまでも「自分の意思でやらせる」こと。親や指導者にやらされる練習は、いつか心が折れてしまうことにつながりかねません。内発的動機を持っているとパフォーマンスが向上しやすく、過酷な練習を長年にわたって継続するモチベーションを失わずに成長し続けることができます。また、達成できる目標を掲げ、段階を経て有能さを育むことも重要なポイントです。

モチベーションを高めるために重要な3つの要素です。

  • 有能さ:できなかったことができるようになるという実感
  • 自立性:自分の意志でやっているという実感
  • 関係性:指導者や親との良好な関係

これらが満たされるように、選手にとって心理的安心な環境を整えることもコーチの役割のひとつです。水野先生はこれまで母親のような立場で選手たちに寄り添い、信頼関係を築いてきました。「指導者として大切なことは、共感力と、その子の力を引き出す方法を探ること。そして、どうなりたいか、やる・やらないは、その子が決めること。あくまでも、主役は選手であることを忘れずに」と水野先生は語ります。さらに「自分が固定的思考になってしまう原因を探り、それに気づくことができた時点で成長的思考に変わる。自己防衛本能に抗って、あえて挑戦しようと思うことが大切」という言葉が心に響きました。

コーチングやマインドセットの手法は、指導の現場にとどまらず、子育てや自己改革にも大いに役立ち、さまざまなシーンで活用することができると感じました。これまでの自分の指導を見つめ直し、思考を整理する絶好の機会となり、なんとも清々しく晴れやかな気持ちになりました。

セミナー終了後、五年振りに開催したお茶会は大変有意義な時間でした。とらやの「花びら餅」を堪能しながら、参加者たちは水野先生に様々な質問を投げかけ、対話を通じて学びを深めました。即興的に学びが深まっていく面白さは、対面参加からしか得ることのできない貴重な体験です。オンラインでは伝えきれない、かけがえのない学びが確かにあることを強く実感したひとときでした。

とらやの「花びら餅」。新年ならではの、おめでたいお菓子です。

生徒の目標に向かって寄り添い導いてゆくために、指導者に求められる能力は多岐に渡ります。「GOODコーチ」になるためには、「専門的知識の向上」「自己省察」「他者の知識を学ぶこと」この3つの要素をバランスよく身につける必要があります。GOODコーチに近づくべく、特別講師・講師・研修生がコミュニケーションを取り合い、良い関係を築きながら成長する喜びを共有する場となるように、今後も様々な学びを提供できるセミナーを企画していきます。

新しい年の幕開けにふさわしく、大変有益で素晴らしいセミナーを開催してくださった水野先生をはじめ、お忙しい中ご参加くださった皆様に心よりお礼申し上げます。

“第32回 御木本メソッドアカデミー認定講師と研修生のためのセミナー ” への2件の返信

  1. コーチングに関して初めて知る事が多く、とても興味深い内容で初めから終わりまで夢中で拝聴しました。
    しかしコーチングとはこんなにも色々な事を考えながら行わなければいけないのか、と驚きました。
    もちろん学習者の努力はありますが、ただ教えるだけにとどまらず、環境やメンタル、関係性まで包括的に向上させないといけないコーチの責任は計り知れないと思います。
    目的に向かって導く為に、自分の知識や実力を深め、それをどこでどんな風に発揮するか、アンテナも自在に張り巡らせないといけないとなるともっともっと経験や勉強が必要だと感じました。
    そんな域には到底及びませんが、今持っている疑問や不安の多くに答えを頂けたので、これからの教育に活かして生徒と共に成長したいです。
    今このお話が聴けて本当に幸運でした。

    1. コメントをいただき、ありがとうございます。
      今後の指導に役立てていただければ幸いです。
      またのご参加をお待ちしております!

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