2024年9月1日 (日)、第31回 御木本メソッドアカデミー認定講師と研修生のためのセミナーを Zoomによるオンラインセミナーにて開催しました。
今回は整形外科医の益田 宗彰医師を講師にお迎えし、ピアノ演奏と深く関わる手と上半身の解剖を紐解き、整形外科医の視点からピアニストへの数々の有益なアドバイスをいただきました。
益田 宗彰医師プロフィール:1998年に北海道大学を卒業して、九州大学の整形外科に入局。
九州大学病院など関連病院での研修を経て、2006年より現在の勤務先の総合せき損センター勤務。2020年から現職。日本整形外科学会専門医、脊椎脊髄専門医等の資格を有する。
『整形外科医が語る「手」の話』
・解剖を眺めてみる・・・関節の基本構造と骨と筋肉の動きについて
・進化の過程で人類が得た「手」の能力
・脳と脊髄、手足のつながり
・なぜ思った通り、なめらかに手足は動くのか – 運動命令とフィードバック-
・手の機能にまつわるさまざまな疾患、トラブル
・音楽家はアスリート
・トラブルを予防するために
セミナーでは、難解な解剖学の話を益田先生の親しみやすい言葉でわかりやすく解説されました。実例を交えた説明や、永久保存版の30ページに及ぶ充実した資料により、敷居の高さを感じずに興味を持って理解を深めることができました。
解剖学的な知識に基づいた正しい姿勢や上肢・手指の動きは、より自然で滑らかな演奏と表現力の向上につながります。指導の現場においても解像度が上がり、生徒の問題点を見つけやすくなったり正しい意識の向け方を具体的に伝えることに大いに役立つと感じました。
また、手のトラブルの原因を理解し、予防策を講じることができるとともに、加齢や使いすぎによるトラブルがあったとしても、このような症例があるという予備知識があることで、慌てることなく適切な対処ができるのは大変心強いことだと思います。
何より大切なことは、故障の予防と故障をしない奏法を身につけることです。故障は多くの場合、無理な奏法が原因であり、その原因を改善しない限り、何度も故障に悩まされることになりかねません。
このようなトラブルを予防するために、『音楽家はアスリートの要素がある』という意識を持ち、演奏に練習時間を費やすだけではなく、身体づくりのためにストレッチや肩回りの体操といったウォーミングアップや、演奏後のクールダウン等の演奏前後の身体のケアを行うことが重要です。やみくもな練習を避けて自分の身体の限界に気付き、よく観察して意識的な練習を行うことが大切であること。また、痛みは身体の黄色信号であり、違和感をキャッチし、くれぐれも無理な練習をしないよう気を付けることなど、様々な症例の患者さんを診てこられた益田先生の説得力のあるお話に大変感銘を受けました。
セミナー終盤では、事前に参加者から提出された質問についての返答と、参加者からの質問への返答がなされ、大変有意義な濃い内容の2時間となりました。
今回は特別に、アーカイブ配信希望者だけでなく当日の参加者にも3週間のアーカイブURLが発行され、復習ができるようにご配慮くださいました。複数回視聴することで、より深い理解と知識を定着させることができて、本当にありがたい限りです。
手や身体の故障や痛みを抱えることなく、一生健やかにピアノを演奏できる奏法を身につけること。また、身体のコンディションを整えるためにウォーミングアップやクールダウンなどのメンテナンスを積極的に取り入れ、常にベストな状態で音楽と向き合えるように、自分自身の身体を労わっていく必要性を学びました。
今回のセミナーをきっかけに、解剖学に対する興味の範囲がぐっと広がりました。今後も折に触れて資料を読み返し、演奏や指導上で遭遇する様々な問題の謎を解明するヒントとして、知識を一層深めていきたいと思います。
みなさま、新学期のお忙しい中、ご参加いただき誠にありがとうございました。