2020年12月27日、第21回御木本メソッドアカデミー認定講師と研修生のためのセミナー「音作りのその先へ ~part 2~」を開催しました。前回に引き続き、ピアニストの佐藤美香先生に講師をお願いし、動画配信の形で行われました。
前半は佐藤先生ご自身の演奏動画、後半はレクチャー動画となっており、大変見ごたえのある充実した動画をご提供くださいました。
演奏動画の曲目
- ショパン スケルツォ2番 op.31
- ショパン ソナタ2番 op.35
- ドビュッシー 版画
佐藤先生の全身、手元のアップ、ペダリングが鮮明に映し出される動画は臨場感に溢れ、普段のコンサートでは絶対に観られないアングルから視聴することができました。これぞオンラインセミナーの醍醐味です!!
しなやかに、全身がひとつに繋がりながらピアノと通じ合った多彩で雄弁なタッチ、下半身にどっしりと支えられ、体幹を取って奏でられる音の絶妙なバランス、先生の深く長い呼吸や、微かに聴こえてくる歌声、椅子のきしむ音までもが、すべて学びとなりました。
所作の随所から音楽が溢れ、音色の多彩さと美しさ、音楽の深さ、スケールの大きさが画面を越えてリアルに伝わってきて鳥肌が立ちました。弾いている姿だけでも、どんな音でどんな音楽が流れているかが想像できるような、音楽とぴったり合った自然な動きでした。
特筆すべきは、ペダリングの妙でしょう。ショパンソナタの4楽章とドビュッシーのビブラートペダルや、ペダルの深さや上げ方を緻密にコントロールする様子が鮮明に映し出され、曲の終わりの余韻まで考え抜かれた妙技に驚嘆しました!!もう溜息しか出ません・・・。
参加者の皆様から「動きがスローモーションのようでした!」「ペダルが凄すぎ」「すでに前半の動画だけで大満足でした!」という声が多数寄せられました。
後半はレクチャー動画を視聴しました。
今回は事前に佐藤先生からのアンケートに受講生が回答を送り、それに対する答えを織り交ぜながら、トレーニングをどのように演奏に結びつていくかについて、先生のお考えをじっくりお話くださいました。
トレーニングでは、無駄なところに無駄な力を入れないよう、神経や脳の回線をクリアにしていく「断捨離」のような意識が必要なこと。また、ゆっくり練習して筋肉のON・OFFを瞬時に行えるように集中し、良い動きを脳に記憶させることが大切で、そのために地道なトレーニングを継続すること。さらに、トレーニングをする際、単に「動き」にとどまらず、ピアノで音が鳴る瞬間のタッチの深さや指先の感触をイメージしてトレーニングをすることが大切なことだと語りました。
指の独立練習と耳の訓練として、「ピアノのための指の訓練 /アンナ・ヒルツェル=ランゲンハーン著、原田吉雄 訳」という教本を実演を交えて紹介してくださいました。このエクササイズで手の体幹を養う効果が期待でき、トレーニングを「音」にしていくきっかけになるのでは、と話されていました。
佐藤先生は3-4指の腱間結合が強い手なのだそうです。
その手で何を意識して弾いているかというと、「結合のない手で弾くであろう音を想像し、その音に近づけることを意識している」とのこと。ここでも想像力と耳が重要な役割を果たし、手指の動きを助けているのだと、目からウロコが落ちる思いでした。
そして、演奏する際には、トレーニングの動きにプラスα、もう一段階先へ行くための「何か」が必要であることを力説されました。血の通った音で弾きたい、喋りたい、作曲家に近づきたいという強い気持ちと、良い響きを聴き分ける耳を持って練習することで、初めてトレーニングが演奏に活かされるのです。
佐藤先生は前半に演奏なさった曲を例に、トレーニングそのままの動きで弾いた音と、そこにプラスαの想像力や音の立ち上がりを聴く耳が働いた音とを弾き分けて実演してくださいましたが、その音には天と地ほどの差を感じました。(オンラインなのにそれを伝えられるのが、これまた凄いことです!)
どんな音で、どんな表現なら自分に刺激があるかを想像して練習すること。動きの記憶以上に、耳の記憶を意識する。自分の常識を外してみる。本当に質の良い音か、自分の音に常に疑念を持ち続ける。日によって自分のコンディションを見ながら弾き方を調整していく等、普段の練習で使えるヒントを惜しみなく教えてくださいました。
ピアノと繋がる音で、感動を呼び起こす演奏の裏には、「強い想像力」と「良い音を聴き分ける耳」「細部まで行き届いた鋭敏な神経」それらがぴったりと繋がることが必要不可欠であるということを、佐藤先生の実演とレクチャーによって、さらに深く落とし込めたような気がします。
最後に御木本先生のレッスンを振り返り、根気よく教えることの大切さと心構えについても語ってくださいました。
- 教える側が「通じる音」を出せるようになること。
- 良い響きを生徒に聴かせて、根気よく教えること。
- 生徒側に、その音が自分と何が違うのかを考えさせること。
- 1つの音が活きていくようにトレーニングを指導すること。
御木本メソッドを次世代へ繋いでいくために、私たちが肝に銘じなければならない指導精神を、改めてここに明示してくださったように思います。
いつもながら、ここに書ききれないほどの金言が沢山詰まったレクチャーでした。いつか対面セミナーが実現する日が来るようにと、強く願うばかりです。
新型コロナ禍で、当初はセミナー開催も危ぶまれた2020年でしたが、佐藤先生には貴重な素晴らしいセミナーを2回も開催していただき、心より御礼申し上げます。そして年末のお忙しい時間を割いてセミナーを受講してくださった皆様へ。皆様のご理解とご協力に支えられて、御木本メソッドアカデミーの活動が続けられていることを再認識いたしました。この場をお借りして深く感謝申し上げます。
来年も、どうぞよろしくお願いいたします。