第20回 御木本メソッドアカデミー認定講師と研修生のためのセミナー

2020年8月30日、第20回御木本メソッドアカデミー認定講師と研修生のためのセミナーを開催しました。

今回は、ピアニストの佐藤美香先生による初の Zoom オンラインセミナーでした。「音作りのその先へ」というテーマで、ショパンソナタ3番1楽章を例に、楽譜を基に表現方法やタッチ、作曲家が求めていることは何か?を考え、楽譜を読み解いたその先にどんな音が相応しいのかについて、たっぷり2時間近くお話してくださいました。

佐藤先生の演奏動画

楽譜を深く理解するには、作曲家の生きた時代背景、人物像、言葉のイントネーションも含めて作曲家について知ること、また、ショパンの直筆譜に書かれている長いアクセント記号や指使い、スラーの意味を読み解くことで、ショパンの求める音楽的な表現方法やショパン自身がどんな手だったのかを想像することができる等、沢山のスライドで丁寧に解説してくださいました。

佐藤先生ご自身の演奏動画に加え、ピアノを弾く手腕の動きを習字の筆運びになぞらえて、先生ご自身が音の方向をイメージした筆跡を動画で分かりやすく説明してくださいました。体から勢いや遠心力を持って弾いていることや、やわらかくかつ体の重みに耐えうる指先に、どのくらいの圧をかけているか、手の用意をして重みを感じたときと、そうでない時の線の違いなど、具体的なタッチや音のイメージを視覚的・感覚的に理解できました。

佐藤先生の手。よじ登るタッチの動きを解説をしています。

ショパンのレガート特有の、立ち上がる音色を生み出す「よじ登るタッチ」について、手腕の使い方や音の広がりや聴こえ方の考察、御木本先生の弾いてくださる美しい音についてのお話も興味深いものでした。

テンポ感を感じつつ、流れや呼吸を自然に表現するために欠かせないのが「体幹」です。左右の手が、どのように弾いても障害のない自由な状態で、メロディーと内声、左手を絶妙なバランスで弾き分けたり、伸びやかな歌う音を奏でるために、体や腕、手のどこを意識して弾いているかを解説しながら、体と手の体幹を使うことの必要性を力説されました。

ピアノに触れた部分を介して「喋りたい、触れ合いたい」という強い気持ちを持ち続け、血の通った音で弾くことを目指し、作曲家という天才に近づくことを諦めないこと。少しでも近づけたと思えた瞬間は、何物にも代えがたい喜びがある、と語った言葉が印象的でした。そこへ到達するのは非常に難しいことではあるけれど、その道筋のためにフィンガートレーニングが必要なのだと仰っていました。

譜読みの段階から作曲家を知り、それぞれの曲のキャラクターを模索する。作曲家の求める音を知り、音のイメージを強く持つ。そして、どこに、どのようなトレーニングを結び付けるのかを考えることが我々の使命のように感じました。

ここにすべては到底書き切れないほどの大切なことを沢山教えていただき、ひとつひとつの言葉に深みがある内容の濃いセミナーでした。佐藤先生、充実した素晴らしいセミナーをありがとうございました!

佐藤先生と参加者の皆様

佐藤先生の CD にショパンソナタ3番が収録されています。筆者はこの CD を聴いて、セミナーの復習と余韻に浸っています。1楽章の冒頭から胸が熱くなり、あまりの感動に最後まで身動きが取れなかった程です。佐藤先生の語られた言葉の数々が演奏から鮮やかに蘇り、それらがひとつに繋がった瞬間、胸に込みあげるものを抑えることが出来ませんでした。「血の通った音で、ピアノが雄弁に語る」まさにそんな演奏でした。

参加者からの感想

参加者の皆様から次のようなご感想をいただきました。一部ご紹介いたします。

胸の熱くなるセミナーでした!!

感動のあまり言葉にできないほどでした。

自然に聴こえる演奏の裏には、これだけ様々なことを考えて弾いていることを知ることができて貴重な体験でした。

演奏をせずに音色や奏法のイメージを伝える方法があることに感銘を受けました。

次回は是非、佐藤先生の生演奏が聴けるホールでのセミナー開催を願っています。

作曲家の求める音を知るために、正しいトレーニングを知ることがとても大事なことで、そのためにさらに御木本メソッドについて勉強をしなくてはいけないと再認識しました!

このメソッドをどのように音楽の中に取り入れるのか、佐藤先生の音楽に対する思いが感じられました。

部分的ではありましたが、佐藤先生の素晴らしい演奏で、やはり音を通して伝わることの大きさを痛感することが出来ました。どんなに言葉で一生懸命説明しても、伝わりきらないことってどうしてもあると思うんですが、先生の演奏で一瞬にして全て明確にされたような感じがしました。

情報交換会について

佐藤先生のセミナーの前に、情報交換会「新型コロナ禍における御木本メソッドレッスンのやり方」を行いました。

対面レッスンでの新型コロナ対策や、オンラインレッスンの様子など、どのようにこの状況と向き合っているか、また、どんな方法でレッスンを行っているかについて意見交換しました。

「こうすればよい」という明確な答えは出せませんが、今出来る最善と思われる方法を考え、学びを止めないことが大切だと感じました。試行錯誤の末に、これまでの対面レッスンでは思いつかなかったような画期的なアイデアが生まれるかもしれません。まだまだ暗中模索の日々が続きそうですが、またいずれこのような機会を設けられたらと思います。

新型コロナ禍で対面のセミナー開催は難しくなっていますが、遠方にお住まいの方や時間が取りにくい状況の方々が、オンラインでの開催によって参加しやすくなったことは大きなメリットだと感じています。今後も充実したセミナーを開催できるよう、より良い方法を模索してゆきます。

ご参加くださった皆様、本当にありがとうございました!