第17回 御木本メソッドアカデミー認定講師希望者のためのセミナー

2019年3月29日、加賀町ホールにて、第17回認定講師希望者のためのセミナーを開催しました。 今回は、ピアニストの佐藤美香先生をお招きして、お話とレッスンをしていただきました。

佐藤美香先生は御木本先生の愛弟子で、チャイコフスキー国際コンクールやショパン国際コンクール入賞という輝かしい実績をお持ちです。 現在は、演奏活動の他、後進の指導にも力を注いでいらっしゃいます。

佐藤美香先生プロフィ―ル

幼少時代からのピアノ遍歴に始まり、御木本先生とのレッスンの思い出、パリ留学時代に学んだこと、レガートの種類と奏法について、テクニックについて、コンサート前後や当日の心構えやコンチェルト・室内楽でのエピソード等、演奏を交えながら、たっぷりお話ししてくださいました。

佐藤先生の指先から紡ぎ出される音色は、それはそれは美しく、艶があり伸びやかな上に、曲からイメージする温度や空気感、光と影、湿度・・・そういった情景までもが手に取るように伝わってきて、まるで音に命が宿っているかのようでした。音楽のイメージと調性や音程の感じ方によって絶妙に変化する雄弁な音色が、何より説得力を持っていました。

御木本先生とのエピソードで特に印象的だったのは、ショパン「バルカローレ」のレッスンについてです。耳でレガートを作ることや音の方向性をよく読むこと、フレーズや曲想について、とても細かく教えていただいたそうです。バルカローレの楽譜は、御木本先生の音楽的な注意だけで50冊くらい使ったというエピソードには驚きました。
ショパンコンクール前は、この加賀町ホールで御木本先生のレッスンを泊まり込みで受けており、このホールの響きが自分の音と御木本先生の音との違いを教えてくれたと語っていました。

手の体幹が必要な2声や3度の話は、とても興味深いものでした。今でもショパンエチュード Op. 25-6 を弾くときは、トレーニングボードを使って3-4指の結合をほぐしているとか。4指が下りなくなって音が鳴らなくなるのを改善するために、演奏旅行中は指の付け根に家の鍵をぶら下げて、掌を上に向けた状態でLこすりをしていると実演してくださいました。しかし実際に弾くときには、指で均等に並べて弾くのではなく、タッチの深さを変えたり、呼吸をするように弾いているそうです。その他、曲に応じたカラダの体幹の置き方やキーに反発されない弾き方、音楽の軌道に乗せた腕の運び方等、実演を交えて丁寧にお話くださいました。

佐藤先生は、ゆっくり弾く練習を沢山するそうです。必要なテクニックに見合った質の良い筋肉を作るためには、手の中の筋肉を意識してゆっくり弾き、どの音も聴き逃さず、ずっと集中して弾いていくことが大切だとおっしゃっていました。ピアニストの練習方法を伺えるチャンスは滅多にないので、大変勉強になりました。

その他にも、沢山の興味深いエピソードを惜しみなくお話くださいました。

後半はピアノレッスンです。曲はベートーヴェン ピアノソナタ第26番「告別」第1楽章と、ショパン「幻想即興曲」、 モーツァルト=ファジル・サイ編曲「トルコ行進曲」です。ペダルの効果的な使い方や耳でレガートを作ること、音のバランスを聴いてタッチを変化させること、音の方向性を読むこと等、きめ細やかにご指導いただきました。

セミナー終了後は、佐藤先生を囲んでお茶会です。

パレスホテル「いちごのショートケーキ」の甘酸っぱいイチゴの香りに包まれながら記念撮影です。バックには庭の桜が満開で、絵になる美しさです。

佐藤先生からも沢山の差し入れを頂戴し、皆で美味しくいただきました。

お茶会の間も、参加者から様々な質問が出て、佐藤先生との会話が弾みました。 佐藤先生の気さくで温かなお人柄も大変魅力的で、 とても和やかな楽しいひと時となりました。

最後に、佐藤先生が御木本先生から教えていただいたことのまとめです。

  • 作曲家に寄り添った音楽と音を求め続けていく。
  • 耳をよく働かせる。
  • 楽譜を理解する。
  • 余計な力と必要な筋肉を選り分ける能力。
  • 作曲家と繋がりたいという真摯な姿勢。
  • 柔軟な感性。

「トレーニングと音楽は切り離せないものである」ということを再認識させていただきました。

佐藤先生、素晴らしいセミナーをありがとうございました。