2021年5月2日、第22回御木本メソッドアカデミー認定講師と研修生のためのセミナー「Lこすりの子どもへの指導」を Zoom で開催しました。講師は山本光世特別講師です。
今回は事前に内容の資料と動画を公開し、参加者の皆様には予習をしたうえで受講していただきました。
お稽古ごとの一つとして近所からピアノを習いに来ている6歳から11歳くらいの生徒さんたちにレッスンの中で L こすりを導入し、効果のあった点や陥りやすい問題点について、動画と資料をもとに解説されました。
Lこすりを継続的に練習させ、毎週のレッスンで繰り返し指導し、必要に応じて曲の中で取り入れることよって、弾く前の手のアーチや腕の構え方が整ったり、もたついていた指運びが、Lこすり後に指が迷わずキーに準備され間違いが減ったりと、多くのメリットを感じたとのこと。子どもの神経伝達スピード向上に役立つ効果的なLこすりの取り入れ方について、多くの生徒さんの例を動画で紹介してくださいました。
難しい部分はただ弾くだけの練習ではなく、工夫することで解決することを子ども自身が理解しており、弾く以外のアプローチを試して練習するのが当たり前になっているとか。どう練習するかを自分で考える姿勢を子どものうちから養うことで、自主的に物事を考えて取り組む姿勢を育むことに繋がるという点も、御木本メソッドの強みであると感じました。指導者も、Lこすりを通じて指と腕の使い方のどちらに問題があるのかを見極めやすくなると同時に、子ども達も改善すべき点が指なのか腕なのか頭を整理しやすくなると言えます。
レッスンでは、小学1〜2年生の子ども達にLこすりのデータを記録して表に書いてくることを宿題にしており、しかも子ども達自身がそれを楽しんで熱心に計測してくるそうです。Lポッチに指を乗せる場所に印をつけたり、シールを貼ってこすり落とす場所を分かりやすく示したり、何をやってくるのかを明確に指示を出し、子どもに進歩を感じさせるよう導いてきたからこその結果なのだと思いました。楽譜に細かな書き込みをし、曲と対応したトレーニングを絵で描いてあげたり、注意点などを子どもが理解できるように工夫している様子が生徒さんの楽譜の写真から垣間見られました。
「一つのことに特化しての単純な作業は必ず向上する。その単純作業を苦手な部分に行い、演奏の向上を目指すというのは御木本メソッドにおいてトレーニングを行う理由です。単純作業は分かりやすい、ゆえに分かることが楽しい、というのは教育の大鉄則であり、7歳の子どもからその言葉を聞くとは思いがけない体験だった。」というお話に共感を覚えました。
分かりやすくも、正しく擦れるようになるのが実は難しいLこすりですが、半円形のゼリーのカップを持たせて手のアーチを意識させたり、ゼリーのカップでLこすりをしたときの「コツン!」と冴えた音を聴かせ、指の関節の骨が立つとこんな良い音になるということを感覚的に理解させる工夫をしていました。
他にも、手の内側から指導者が補助したり、掌の付け根の皮膚を触って指の付け根の運動を皮膚感覚で学ばせたり、どんな言葉をかけると伝わりやすいか、親指の音色の作り方や応用例も紹介されました。
腱の結合が強く、色々な手の構造上の問題を抱える生徒さんの例も興味深いものでした。結局のところ、脳からの神経伝達の速さがピアノをスムーズに弾く上で大変重要であり、神経伝達スピードには、生まれつきの大きな個人差があることに改めて気付かされました。それと同時に、Lこすりで正しい神経の使い方を学習することにより、導入期の子どもで、のんびり弾いているタイプの生徒さんでも、サッと手をきれいな形で構えることが可能になったり、手の条件が悪くても成長するにしたがって手の状態が改善し、少しずつ弾きやすくなってくる例もあります。心身の成長や神経系の発達により、すべてが繋がる「その時」を待ち、焦らず根気よく指導し見守ることの重要性を感じました。
指が思うように自由に動き、色々な手の問題が改善されて弾くことへのストレスが軽減されることは、代え難い喜びです。楽しければピアノがどんどん好きになり、自分から練習したくなります。手の分化ができず、弾くこと自体に大変な苦労を要する生徒さんが、Lこすりやその他トレーニングに地道に取り組み、次第に指が動くようになり、ピアノを生涯弾き続けられる合理的で自然なテクニックを身につけられることは、なんと幸せなことかと思います。御木本先生が遺してくださった「御木本メソッド」が、ピアノ学習者にとって大きな拠り所となることは言うまでもありません。
最後に、山本先生の言葉を引用します。
導入期の子どもも年長者の場合も、ピアノを弾く技術の「しくみ」という点では同じようなところがあるのではないかと考える。曲の規模、オクターブの技術、音色のヴァリエーションなどといった点で違いがあるが、必要な筋を使い不必要な筋を使わない、脱力と重さと指の支えによるいわゆる合理的な奏法は共通であり、子どもはできるだけ早い時期からその奏法を学ぶようにさせたい。Lこすりは「正しいピアノ奏法」へ子どもを導く可能性を大きく持った指導方法の一つと言える。
「御木本メソッド」は、様々な年代の、様々なレベルの学習者に対応できる、実に有効な学習手段であることを再認識したセミナーでした。
セミナー後は、子どもの指導での悩みや質問について意見交換を行いました。子どもの指導で大きな悩みのひとつである親指の「マムシ指」への対処法をはじめ、手のアーチや姿勢の保持などについて、どんな工夫や声がけをしているか、講師のみなさんの体験談をお話いただき、貴重なヒントが多く得られました。研修生として勉強中の方々にとっても、有益な情報交換の場になったことと思います。
受講者の感想
小学校低学年の子や年中さんのレッスンも開始したところだったので、とても勉強になりました。なかなか30分ほどのレッスン内であれもこれもと組み込むのは難しいですが、先生方のように色々と工夫をしながらレッスンをしていきたいなと思いました。Lこすりもトライしてみます!
小さな子どもにLこすりをさせるという発想はありませんでした。これから試してみたいと思います。
普通の子のレッスン、如何に問題意識をもたせて向き合わせるか、こちら側からのアプローチの仕方も大切だなと痛感しました。講座後の先生方からの様々なアイディアも早速取り入れたいと思います。
マムシ指の形を「これは悪いことだ。カッコ悪いのだ。」と子どもにはっきり自覚させるための声がけの仕方が大切だと思いました。
宿題を指導者が短い時間でもきちんと確認すること、先生が見てくれると思うことで生徒はモチベーションを保てる。これは子どもに限らず大人でも同じだと思いました。
導入レベルの生徒さんへの指導にメソッドを反映させるのはピアノ学習者の方々の将来に大きな影響を与えるものだと思います。
早速ボードを使って幼稚園の年中さんにレッスンしてみました。親指をピアノ弾くみたいに擦ってと言ったのですが、指の腹をあてながら擦り始めました。親指の動き方を何度も触って教えてきたけど、実際は頭と身体、両方が連結して理解はできていなかったんだと知ることが出来ました。ボードを使うことで、出来ていなかった部分や勘違いしていた部分が可視化出来たと感じました。
連休の真っ只中、多くの皆様にご参加いただき誠にありがとうございました。
御木本澄子会長への追悼
セミナーの冒頭に、4月4日にご逝去なさった御木本澄子会長への追悼を行いました。
本村久子代表理事による弔辞の後、御木本先生のご冥福をお祈りして1分間の黙祷を捧げました。
一般社団法人御木本メソッドアカデミーは、今後も御木本澄子先生のご意志を受け継ぎ、さらにその研究・教育活動を発展できるよう一丸となって取り組んで参りたいと思っております。
今後とも、何卒よろしくお願いいたします。